冬が近づき、寒くなってきた今日この頃。
私は沖田さんと一緒にお茶を飲んでいた。
寒いのは事実だが、日の光に当たりながらお茶を飲むと、暖かくなるような気がした。
のんびりとくつろいでいると、急に沖田さんが口を開いた。
「ねぇ、千鶴ちゃん」
「なんですか?」
お茶を飲むのを止めて、彼の方へ向き直る。
彼はいつも通り、優しそうな笑みを浮かべたままこちらを見ている。
「山崎くんについて、どう思う?」
ポツリと呟くように、普段の彼なら口にしなさそうな質問を投げられた。
私は一瞬状況が飲み込めず、瞬きを何度かして落ち着きを取り戻した。
「だからね、山崎くんについて、どう思う?」
もう一度、今度は顔を覗き込まれてそう問われた。
「どうって…私は好きですけど」
「………そう」
好き、と私が言った瞬間、場の空気が冷えたような気がした。
それが何故なのか分からなかったが、沖田さんが不機嫌そうなのは分かった。
「……その好きは、どんな好き?」
「どうって…山崎さんは、私の事を守ってくれたし…それに…」
「それに?」
「この前、綺麗な髪飾りを戴いたんです」
更に、場の空気が冷えたような気がした。
私は温まりたくてこうして日に当たっているのに、何故寒くなるばかりなのだろうか。
「…どこ」
「え?
「その髪飾りって、どこにあるの」
人でも殺しかねないような目で、沖田さんは何処かを見つめていた。
けれども私に要求するような口調で、髪飾りの居場所を尋ねてくる。
「それなら…ここに」
あまりにも嬉しくて、いつも持ち歩いているとは言えないけれど。
私はそっと懐から髪飾りを出すと、沖田さんに見せた。
「ふーん…」
沖田さんは、桜の花びらの模様の、綺麗な髪飾りを見つめた。
「ねぇ」
そして呟いた。
「壊してもいい?」
「…は?」
あまりにも急すぎる要求に、私は目を見開いた。
壊す、という言葉が、頭の中をぐるぐると回る。
そしてハッとして、すぐに髪飾りを懐へ仕舞い込んだ。
「駄目です!」
「何で」
「私の宝物だからです」
「……じゃあ、なおさら壊さなくちゃ」
手首を掴まれ、押し倒されそうになった。
誰でもいいから、助けて欲しい。そう思った時だった。
「何をしているんですか。沖田さん」
その声は、一見感情のこもっていないような声だけど、だけども優しい響きを持っていた。
山崎さん、私が小さくそう呼ぶと、彼は急いで駆け寄ってきてくれた。
「彼女の上からどいていただきたいのですが」
「……相変わらず、堅苦しい人だなぁ」
だから苦手なんだよ、沖田さんはそう呟くと私の上からどいた。
「…千鶴ちゃん、ごめんね?」
そう言い残して、彼はその場から立ち去った。
最後に見た横顔は、自嘲的な笑みが混ざっていたような気がした。
「怪我はないか、雪村くん」
「はい。山崎さんのおかげです。有難う御座いました」
私は素直にお礼を言った。
あのまま山崎さんが来なかったら、どうなっていたか想像がつかない。
「…彼と、何をもめていた?」
「え?あ、えっと…これ」
私は懐から、以前山崎さんに貰った髪飾りを取り出した。
それを見て山崎さんは、驚いたような顔をする。
「……気に入って、くれていたのか」
少し、その顔が嬉しそうに綻んだような気がして、私は頬が緩んだ。
「はい。とっても」
微笑むと、山崎さんは優しく私の頭を撫でてくれた。
その手は少し冷たかったけれど、何故か心地良く感じた。
「…どうして、俺を嫌いにならない」
「……え?」
「俺は見てのとおり、無愛想で表情が読めない。君のような人には、嫌われて当たり前のように思う」
頭を撫でる手を止め、山崎さんはそう呟いた。
土方さんの心酔している彼は、土方さん以上に不器用な人なんだなと思った。
「山崎さんは、優しいです」
「……そんな事は」
「知ってます?手の冷たい人は、心が温かいんだって」
私はそう言うと、山崎さんの手をそっと取った。
両手で包み込むと、ひんやりとした手が心地良く感じた。
「山崎さんは、優しいんですよ」
微笑むと、山崎さんも嬉しそうに微笑んでくれた。
「優しくない人は、そんな風に笑いませんし、他人の事を気にかけたりしません」
心から、私はそう思った。
彼はこんなにも優しい。
私の事を気遣って、今日だって駆けつけてきてくれた。
「私は、優しい山崎さんが大好きですよ」
「……有難う」
冷たいその手は優しさの証
嘘なんかついたって、すぐに分かります。