お前の口から聞きたい。


愛してると、言って欲しい。

 


これは、単なる我が侭なのだろうか)

 

ふと思った。


自分は、千鶴に何度も気持ちを伝えているのに。


向こうは恥ずかしがって、曖昧な言葉しかくれないのだ。


好きだとは言われても、愛してるとは言われた事が無かった。


だから、余計に……

 


(聞きたい)

 


そう思ってしまう。


心から愛した女性に、こんなに振り回されるなんて考えてもみなかった。


何度も、心が乱される。


思わず目を伏せたその時に、聞き慣れた声がした。

 


「斉藤さん、夕飯の用意ができましたよ」

 


一緒に暮らして、もう幾日過ぎただろうか。


声を聞くだけで、愛しいと思うのを止められない。


でも、今は……

 


(何故、名前で俺を呼ばない)

 


すねた子供のような気持ちになって、ついついわざと無視をしてしまう。

 


………………

 


その様子に首を傾げた千鶴は、また呼びかけた。

 


「斉藤さん?」

 


食べないんですか、と問いかけてくる。


だがあえて無視をする。


一さんと、呼びかけてくれるまで。

 


「斉藤さんってば……

 


寝ているんですか、という声が聞こえる。


少し困ったように微笑む千鶴が可愛くて、抱き締めたい衝動を必死に我慢する。

 

だが、千鶴を見つめるだけしかしない。

 


もしかして」

 


思い出したように焦り、千鶴はコホンと咳払いをした。

 


「一さん、夕飯ですよ。行きましょう?」

 


やっと名前を呼んでくれて嬉しいが、その反面早く慣れて欲しいという気持ちもある。

 


「分かった」

 


とは答えるが、動こうとはしない。

 


何が分かったんですか?さ、行きますよ!」

 


腕を引っ張られる。


つい触れられて、抱き締めたい衝動がまた襲ってきた。


千鶴を腕の中に引っ張りこむ。

 


「は、じめ、さんっ」

 


焦る彼女の唇に、口付ける。


すぐに離したが、千鶴は真っ赤にくなっていて、体に力が入らないようだ。

 


何するんですか……

 


恥ずかしそうに言葉を発する。

 


名前を呼び直したくらいで、俺の機嫌が良くなるとでも?」


「そ、そんなっ

 


何をすれば、と千鶴が言うと、俺は静かに呟いた。

 


……愛してる。お前はどうなんだ?」


「は、恥ずかしくて言えませんっ!」

 


でも、聞きたいんだ。

 


無理矢理にでも、聞きたくなる」

 


そう言いながら激しく唇を奪う。

 

千鶴のぬくもりが、愛しくてたまらない。


唇を解放した時には、千鶴は消えそうな声で呟いた。

 


私も、愛してます」

 

俺もだ、と囁く前に、もう一度千鶴に口付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴方と、口付けを交わそう。