私は、雪村家に仕える家柄の一人娘だった。
雪村家に生まれた2人の男女の子供が、どのような顔をしていたのか。
どのようにして成長していたのか、それは今では覚えていない。
おぼろげにしかない記憶、一緒に遊んだのかも忘れてしまった。
ただ覚えている事は、一族が滅びてしまったあの日だけ。
「千歳様、お逃げ下さいっ!」
雪村家に仕えているが、自分とて身分の高い鬼だった。
使用人達は、必死で自分を逃がそうとその身を犠牲にした。
「生き延びて下さい!」
一人で生き延びて、その先には悲しみと憎しみと絶望しか残らないというのに。
雪村家のあの2人の子供を逃がす為に、私の両親と雪村の両親は死んだ。
当然私も死ぬつもりだった。
だがそれは叶わなかった。
「早く、早くお逃げくださっ…きゃああぁっ!」
次々と死んでいく、見知った人物が。
動かなくなった死体が、自分の上に次々と重なる。
むせ返るような血の匂い、何かが焼けた匂い。
ぼんやりと視界が移れば、そこには真っ黒な煙が充満していた。
人間を焼くと、黒い煙がでるというのは本当だったのだと思った。
(…苦しい)
もう自分の周りに、生きている者は居ない。
死体に埋もれた自分に気付かずに、人間共はすでに撤退している。
死んでしまえば、鬼の回復力はもう消えうせる。
だが、自分はまだ生きていた。
(痛、い…)
幼いながらも、剣術を学んでいて、多少の痛みには慣れていたはずだった。
それでも、肌を焼き尽くすその痛みに涙が溢れた。
死体がすでに殆どが焼け焦げ、残るは自分だけとなる。
ああ、これでもう終わる、そう思った。
(……ぁ)
焼け焦げた肌はたちまち回復してしまう。
また新たに焼き尽くされても、すぐに元に戻ってしまう。
痛みだけの連鎖、それがどれほどの苦痛か。
(………痛い、よ)
この時、鬼の体に生まれた自分をどれほど呪ったか。
元に戻らないで、早く死にたい、そう思ってもどうにもならない。
焼け焦げた木材が上から落ちて、体を痛めるける。
それデモ死にきれない、木材が塵になっても未だ死ねない。
人とは、どんなに醜いものなのだろうか。
人とは、どんなに脆いものなのだろうか。
人とは、どんなに愚かなものなのだろうか。
これほどまでに憎しみを抱いた事は無い。
激しい激痛が襲う中、ぼんやりと人という者を激しく恨んだ。
けれど、恨みきれなかった。
これでは人間と同じになってしまうと、分かっていたから。