目隠しを外されたのにもかかわらず、周りはぼんやりと薄暗かった。
小さな光が少しだけ見える。
その光の中でうっすらと見えたものは、沢山の拷問器具だった。
(……う、そ)
嘘では無かった。
よく見えないが、おそらく五寸釘であろう。
いくつも散乱していて、少し動く度に冷たくて硬い感触がする。
重たそうな漬物石に、焼き鏝、木刀、金属で出来た棒。
日常生活にありふれていそうなそれらが、怖くて仕方なかった。
「……嫌…だよ……」
かすれたような声しかでない。
涙がどんどん目から零れ落ちる。
嗚咽が止まらなくて、ただ泣くしか無かった。
「随分と泣き虫なんだな」
見下したような、凛とした声があたりに響いた。
それは戦場に出た鬼神のように恐ろしく、体が震えた。
「武士として恥ずかしくねえのか?お前がここに来る前に、腰にぶら下げていたモノは何だったんだ…?」
手始めに、男が木刀を握る。
顔はよく見えなかったが、漆黒の髪が美しく揺れていた。
きっと、この木刀で体中を打たれるのであろう。
千歳は歯を食いしばって、次の瞬間来るであろう、痛みに備えた。
「うぁっ…!」
体中が、痛い。
もう何度打たれたのだろうか、それすらも覚えていない。
体力が尽きてしまい、死にそうなくらい苦しい。
「…まだ吐かないとは、強情だな」
男はそう呟くと、床から何かを拾った。
手には金属のついた棒…金づちだ。
(…五寸釘…!?)
千歳は目を見開いた。
まさか、それを体に打ち込まれるのではないだろうかと、酷く恐ろしくなった。
どうか予想が外れて欲しいと思ったが、そういう訳にもならない。
自体は、最悪の方向へ進みだしていた。
「…これで観念すればいいんだがな」
そう言って、思い切り手をつかんできた。
床に掌を広げさせると、硬い金属の何かを押し付ける。
尖っていて細い…やはり五寸釘だ。
「嫌だ…嫌だ…っ」
小さく反抗するが、男はそんな声が聞こえていないかのように金づちを構えた。
次の瞬間、鈍い金属と金属のぶつかり合う音がした。
激痛が、走った。
「がっ…!!」
掌が死にそうなくらいに熱くて痛い。
きっと、釘を打ち込まれたのであろう。
涙がこれまで以上にポロポロと零れる。
こんな思いをするくらいなら、死んだ方がましだった。
「ぃ、た…ぃ…」
声がもう出ない。
男が無言で釘を引き抜く。
「うぁっ…あぁぁっ!」
ずるりと引き抜かれ、おびただしい血が溢れ出す。
本来なら回復しているはずの傷口は…まだ残っている。
体力が尽きて、鬼の力がうまく発揮できない。
焦点の合わない目でうつろになっていると、男は口を開いた。
「これでも話さねえのか…だったら、そうだな…」
焼き鏝で、体中に傷をつけるか、と男は呟いた。
その後無言で千歳の着ていた着物を剥ぎ取ろうと、手を伸ばす。
もう、千歳は何も感じていなかった。
ただ痛くて苦しいとしか、理解出来なかった。
「死なない程度に加減してやる」
そう言って、千歳の着ていた淡い紫の着物を思い切り破った。
すると、
「………なっ」
破れた部分から見えた、白く美しい肌。
そしてサラシを巻いてある胸元には、女性独特の膨らみがあった。
「嘘、だろ………まさか…女…?」
驚きを隠せない声色が、遠い意識の中で聞こえたような気がした。
長い苦しみから、解放されたような気がした。