うっすらと目を開くと、暖かな光が見えた。
心地良いが、自分だけが孤独な存在のような気がするから、光は嫌いだ。
自分は光のようにはなれない、一生闇のままだから。
(……痛)
ハッと目を覚ますと、千歳は畳の上に倒れていた。
手足は縄で縛ってあり、身動きがとれない。
目隠しもされている。
(………さっきの人が)
自分をこんな風にしたのだろうな、と思った。
縛られた所為で、体中が余計に痛い。
思わず舌打ちしたくなるような扱いだ。
体を起こそうとするが、力が入らなくて立てない。
動かそうとすればするほど疲労が溜まる。
「…くっ……」
思ったように動けないもどかしさにイライラする。
唇を噛み締めて唸っていると、後ろから声がした。
「目が覚めたか」
先ほど人物よりも低い声色だった。
同一人物では無いと、聴覚のみで判断する。
「……何で」
こんな事を、と呟きたかったが言えなかった。
喋れば体中に激痛が走る。
鬼の体なのにここまで回復が遅いのは、衰弱しきっている所為だ。
「お前は…風間千景を知っているらしいな」
畳の軋む音が、微かに聞こえてくる。
気配で分かる、こちらに近づいてきているのだと。
頷こうにも話そうにも、体力が残っておらず、黙り込むようになってしまう。
それが相手の反感を買ったらしく、小さく舌を打つ音が聞こえた。
「何故一言も口を聞かない。…それは、お前が風間千景の仲間だと言っているようにも見えるが?」
そうだよ、仲間だった。
仲間だったんだ。
それはもう昔の事で、今の自分には関係ない。
だって自分は、捨てられたのだから。
愛よりも一族を選ばれて、捨てられたのだから。
「…まただんまりだな。こうなりゃ拷問でもなんでもするしかねぇな」
ピクリ、と体が反応した。
拷問なんてされた事は無かった。
昔、一族の小間使いが人間に捕まり、拷問を受けたというような噂は聞いたことがある。
水の中に入れられたり、重たい瓦を体に乗せられたり、木刀や鞭で死なない程度に打たれたり。
想像した事を後悔したくなった、こんなのは生き物に対してする事ではない。
「なんだ、怖いのか?ならさっさと口を開くんだな」
黙り込むしか無かった。
口を開きたい、けれども恐怖で言葉がまともに紡げない。
どうにかして話そうと思うが、結局は言葉にならない声しか出ない。
そうやって震えているうちに、声の主に担ぎこまれてしまう。
「随分軽いな…こんな軟弱な男が、風間の仲間とはな…」
ポツリと呟かれた言葉が耳に入ってきた。
自分は男ではないのに、自分の容姿が嫌でも男に見せてしまうのだ。
もともと癖のある髪の毛は、伸ばすと整えるのが大変になる為切ってしまった。
普通の女なら、髪の毛を伸ばして結ったりするものだが、自分にはそれができない。
動きにくい華やかな着物も嫌いだった。
自分は男に生まれれば良かったのに、と思うこともあった。
「………」
これから何をされるのだろう、と思うと怖かった。
いくら鬼の力があっても、酷い事をされれば、この衰弱しきった体は死んでしまうかもしれない。
鬼の血が薄いのではないが、濃いのでもない。
人と鬼が半分混ざったような自分の体は、風間のような純血の鬼のようには、強くなかった。
(死にたく、ない…)
涙が出そうになる、苦しくて怖い。
担ぎこまれた時に感じた冷ややかな体温が、余計に恐怖の引き金となった。
嫌だと嘆いても、事態は変わらないというのに。