人間とは弱くて儚く、もろい存在だ。

 

『あの人』は、そんな軟弱な人間が嫌いだと何度も呟いていたけれど。

 

私は、むしろ好きになった。

 

あっという間に散ってしまう、儚い命。

 

…なんて美しいんだろう?

 

もろいからこそ、儚いからこそ、その命は美しくなる。

 

短い時間しか生きられないからこそ、よりいっそう輝ける。

 

羨ましい。何度そう思った事か。

 

 

 

 

 

 

「千歳、お前はもう俺についてくる必要は無い」

 

 

京へ向かう道の途中、先頭を歩いていた風間がそう言って来た。

 

いつもどおりの無表情で、感情が読み取れない。

 

 

「……何でって、聞いてもいいかな?」

 

 

せめて理由を聞きたくて、うつむきながらも呟いた。

 

でも、風間は何も言わない。

 

仏頂面をして、ただ黙るだけだった。

 

 

「……もう、いい」

 

 

思わず涙が出そうになるが、必死で我慢する。

 

泣きたくなるのは、理由を聞かなくても分かる自分がいるから。

 

 

「………私はもう用済みなんだよね」

 

 

京には、私よりも血の濃い女鬼は沢山いる。

 

噂に聞いていた、鬼の姫…千姫様だっている。

 

だから、血の薄い自分は用済みという事なのだ。

 

 

「…大嫌い」

 

 

やはり涙が溢れ出てきて、頬を流れた。

 

泣き顔を見られたくなくて、くるりと踵を返す。

 

 

「……大嫌い」

 

 

涙が止まらないくらい、悲しかった。

 

やはり自分は、子を産むだけの存在としてしか見られていなかったのかと思うと

 

酷く、悲しかった。

 

 

「…すまない」

 

 

珍しく風間が謝る。

 

聞きたいのは、そんな謝罪の言葉ではないのに。

 

 

「何で謝るのさ。私は、風間なんて大嫌いだから関係ない……っ」

 

「……こうなると分かっていて、お前を傍に置いた。…すまなかった」

 

 

違う違う違う。

 

聞きたいのは、そんな言葉じゃない。

 

 

「…俺の事は忘れろ。……幸せになるといい」

 

 

貴方がいなくて、どうやって私は幸せになれるの?

 

貴方がいないのなら、幸せなんて私には一生ありえない。

 

 

「…大嫌い、だよ」

 

「……ああ」

 

 

嘘、本当は大好きなのに。

 

大好き、なのに、

 

 

「大嫌いだ…!風間なんて…っ」

 

 

せめてものの強がり。

 

でも、涙はやはり止まってくれない。

 

 

「……千歳」

 

 

風間がポツリと名前を呼んだ。

 

 

「……俺は、お前を……」

 

 

最後に風間が何を言ったのか、聞こえなかった。

 

私は風間から背を向けて、逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛しき貴方に背を向けた。