寒くなってきた今日この頃。

 

私は、いつものように巡察に同行しようと準備をしていた。

 

今日は斉藤さんと一緒で、三番組の巡察の日だ。

 

最近は穏やかな日々が続いていて、事件などは起こっていない。

 

 

「…はぁ」

 

 

 

だが、身を切るようなこの寒さには、正直参ってしまう。

 

ほんの少しでも温かくしようと、何枚も服を重ね着する。

 

しかし、どうやっても隠れない顔や手などは、寒くて仕方なかった。

 

ふう、と息を吹きかけてみても、凍ったように手は上手く動かない。

 

 

「……寒いなぁ」

 

 

寒いと呟いてみれば、ますますその寒さが実感できる。

 

四季の変化を目の当たりにできるのは嬉しいことだが、これはいくらなんでも寒すぎる。

 

何度もやっていれば温まると思い、手に息を吹きかける。

 

ほんの少しだけ温まった気がして、何度も何度もそれを繰り返す。

 

すると、背後から聞きなれた声がした。

 

 

「…何やってんだ、お前」

 

 

くるりと振り向けば、そこには土方さんが居た。

 

やはり今日は冷えるのか、いつも来ている服からもう一枚着物を羽織っている。

 

 

「こんにちは、土方さん。…今日は寒いですね」

 

「ん?…あぁ、今日は特に冷えるな。これから、斉藤と巡察か?

 

 

はい、と答えると、土方さんは少しだけ微笑んでくれた。

 

私も微笑みかえそうとするが、寒さで頬が引きつって上手く笑えない。

 

そんな様子を見て、土方さんは可笑しそうに笑った

 

 

「お前、なに百面相してんだ」

 

 

綺麗に整った顔を緩めて、可笑しそうにククッと笑っている。

 

普通なら怒っても良いはずなのに、不思議と怒りはこみ上げてこなかった。

 

土方さんが、馬鹿にするように笑っていないのはハッキリと分かっていたから。

 

 

「あはは…寒いから、ちょっと顔が引きつっちゃって…」

 

「大丈夫か?風邪だけには気を付けろよ」

 

 

こうやって、いつもいつも、私を心配してくれる。

 

土方さんは、鬼の副長と呼ばれているけど、こんなにも心優しい人だ。

 

幹部の人たちだって、新撰組には良い人ばかりが居る。

 

 

「あ、そろそろ行かないと…何か温まる物でも買ってきましょうか?

 

「…そうだなぁ」

 

「何が良いですか?私でお役に立てるのなら、何でも

 

「いや、いい」

 

 

土方さんの役に立ちたいと思ったが、静かに苦笑されて言葉に詰まった。

 

やっぱり、私がでしゃばっても迷惑だったのだろう。

 

少し虚しくなって、無理矢理にでも笑おうと頑張る。

 

 

「そ、そうです、か…それなら、いいんです…」

 

 

あまりこの場に居たくなくて、そろそろ時間なので、と呟いて踵を返そうとする。

 

走り出そうと思った矢先、いきなり土方さんは私の腕を掴んできた。

 

突然の事に驚いて、私は動きを止めてしまう。

 

 

「…無事に」

 

「え?

 

「無事に帰って来い。…土産は、それでいい」

 

 

この瞬間、何を言われたのか分からなくて、頭のなかがぐちゃぐちゃになる。

 

今、土方さんは何と言ったのだろうか、聞き間違いではないのか。

 

ぐるぐると、頭の中を何かが回っている。

 

 

「ひ、土方さん…っ」

 

 

思わず振り返って土方さんを見ると、少し赤くなった彼がそこに居た。

 

私が意外そうに見ると、土方さんは不機嫌そうに目線を逸らした。

 

 

「もういい。……さっさと行け」

 

 

くしゃり、と私の髪を、土方さんの大きな手が撫でる。

 

心地良くて、一瞬だけ我を忘れそうになったが、すぐに現実に戻る。

 

 

「あ、はいっ」

 

「帰ってきたら……一番に、俺のところへ来い」

 

 

土方さんは微笑むと、私の唇に、触れるだけの口付けを落とした。

 

照れくさそうに笑って、そして優しく微笑んで。

 

 

「…ちゃんと戻って来いよ」

 

 

そう呟くと、くるりと背を向けて私から遠ざかって行った。

 

ハッキリと見えた土方さんの背中。

 

艶やかな黒髪にチラリと覗いた耳が、私と同じ朱色に染まっているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寒空下で方を

 

 

 

 

 

 

貴方が居るだけで、温かい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『それでいいんだ』のhirako様へ、相互記念で差し上げます。

甘めの土方×千鶴との事でしたが、いかがだったでしょうか…?

不器用で、でも優しい土方さんのイメージが伝われば嬉しいなぁと思います。

少しでも気に入って戴ければ幸いです。hirako様、リクエスト有難う御座いましたw

 

2008.12/4  Alive 管理人:吹雪 裏那