はぁ、と息を吐けば、白いけむりがふわふわと浮かぶ。
だんだんと寒くなってきた今日この頃。
庭の散歩をするだけでも体が凍えるようで一苦労だ。
そんな時に、原田さんが私にあるものをくれた。
「ほらよ、これでも食っとけ」
貰ったのは、小さくて可愛らしい、橙色の丸い物体。
前に食べたいと私がぼやいていたのを、原田さんは覚えていてくれたようだ。
「…可愛いなぁ」
思わず掌の中のみかんを見つめる。
まんまるで、ツルツルしていて、可愛いと思う。
食べるのにはもったいない気がして、私はしばらくみかんを眺めていた。
「…何してるの、千鶴ちゃん?」
急に後ろから声がして、思わず体が強張った。
後ろを振り向けば、あいかわらずにこにこ笑っている沖田さんが居た。
「沖田さん…気配を消して近づいてこないで下さいっ」
「あはは、ごめんね。千鶴ちゃんの驚いた顔が見たかったんだ」
文句を言っても、沖田さんは笑って流してしまう。
でも、最近寒い所為か、前よりも元気が無いように見えた。
心配してじっと見つめると、沖田さんは困ったように笑う。
「……千鶴ちゃん?」
名前を呼ばれてハッと我に返った。
今まで沖田さんを見つめていたのかと思うと、頬が熱くなる。
「真っ赤だよ?……可愛いなぁ」
クスリと笑われて、ますます恥ずかしくなった。
「ご、ごめんなさいっ!私ってば…」
「ううん、大丈夫。可愛いから許してあげる」
にっこりと笑顔をみせられて、胸の鼓動が早くなる。
気のせいだ、と思いながら私は会話を続けた。
「沖田さんも可愛いって思いますか?」
「え?」
「可愛いですよね、このみかん。原田さんに貰ったんです」
えへへ、と丸いみかんを見つめて笑う。
その様子を見て、沖田さんは急に笑い出した。
「…あはははっ!み、みかんって…はははっ」
天然さんだね、といいながら沖田さんは笑い続けた。
ぎゅう、と抱きしめられて、思わず変な声をあげてしまった。
「わっ!」
「可愛いって、みかんに言ったんじゃないのになぁ…かしてごらん、食べよ?」
クスクスと笑いながら、沖田さんは私の手からみかんを奪った。
私をすっぽり抱き込むようにしながら、橙色の皮をゆっくりと剥く。
ちょっと可愛そうな気もしたが、食べないと腐るだけなので黙っておいた。
「ほら、あーん」
三日月のような形のみかんを差し出されて、私は首をかしげた。
「…じ、自分で食べます」
恥ずかしくて、そういいながらぷいっとそっぽを向いた。
沖田さんは無言で私を見つめると、おもむろにみかんを自分の口に放り込んだ。
「…すっぱい」
そしてニヤリと笑うと、私の唇に、そっと自分の唇を重ねた。
驚いて、固まりながら顔が真っ赤に染まってしまう。
「……ね?」
すっぱいでしょ、と言いながら、私の唇を軽く舐めた。
「…ぁ」
ほのかに酸味の残るキスが忘れられなくて、私は沖田さんの唇を目で追ってしまった。
ぼーっとしている私を見て、沖田さんは嬉しそうに笑う。
「…もっとして欲しいの?」
私の返事も待たず、沖田さんは唇を再び重ねてきた。
強引に上を向かされて、むさぼるように口付けられる。
その重ねられた唇は、冬だというのに熱を持っていた。
「…んっ」
ぬるりとした舌を入れられて、ゾクリと肌が震えた。
ぴちゃ、と濡れた音を立てながら、口腔を犯されて気が狂いそうになる。
やっとの思いで開放された時には、体には少しも力が入らなくなっていた。
「……ご馳走様」
艶めいた声でそう囁かれて、心臓が壊れそうなくらい激しく脈を打つ。
恥ずかしくて、でも嬉しくて、矛盾した気持ちが溢れてくる。
「………ね、千鶴ちゃん」
再び強く抱きしめられて、耳元で沖田さんが呟いた。
「みかん、美味しかったね?」
とろけそうに甘く微笑み沖田さんの問いに、私は黙って頷いていた。
君の唇が、何よりのご馳走
1つしかないから、余計に欲しくなる。