僕の夢見ていた未来は、あっという間に握り潰された。
僕には時間が無いんだ、もう。
(…どうしようかな)
前日、父親の知人でもある松本医師と再会した。
再会したのはいいが、喜ぶ時間は殆ど無かった。
理由は、自分は病気にかかっていると告げられたから。
(風邪なら良かったのに、数日寝てれば治るし)
病名は、労咳。
今の時代では、治療方法が見つかっていない、不治の病。
もうこの体は、既に蝕まれている。
今も、前も、進行形で、だんだんと蝕まれているのだ。
(……死ぬのかな)
嫌だ嫌だ嫌だ。
心の中で、そう叫んでいる自分が居る。
……でも、それは変えられようのない真実で。
(………馬鹿みたい)
もう少し、生きていたかったと思った。
千鶴と、遠い未来を過ごしたかった。
それなのに、どうして。
(…どうして、今なのかなぁ)
どうして、僕なのか。
他人になすりつけてでも、死にたくない。
死という恐怖から逃げたいのに…逃げられない。
怖いんだ、凄く。
「沖田さーん?」
襖の向こうから、声がした。
顔を見なくても分かる、愛しい声…千鶴だ。
「…千鶴?」
「はい。ちょっとお話がしたくて。…入っても、良いですか?」
その問いかけに、沖田は断らなかった。
…無性に、千鶴に会いたかった。
部屋へと入ってきた千鶴は、微笑みながら、隣へと腰をおろしてきた。
「大丈夫…ですか?」
「……分からない。でも、さすがに困ったなぁ…あはははは」
ふざけて笑おうにも、渇いた笑い声しか出ない。
逆に、千鶴を心配させる破目になってしまった。
「…………私は、沖田さんの傍に居ます。ずっと」
消えそうな声で呟く千鶴。
優しいね、そうやって、僕を慰めようとしてくれてるんだ?
「………まだ、何か方法があるはずです。だから…」
簡単に死ぬなんて、言わないで下さい。
強い眼差しで僕を見つめ、千鶴はそう伝えてきた。
…馬鹿みたいだよね、無理だって分かってるのに。
君がそう言えば、なんでも成功するような気がする。
「…僕のわがまま…叶えてくれる?」
「わ、私に出来る事なら、何でもします」
愛しい君に向かって、呟く。
「……全部、僕に頂戴」
君が欲しい。
君が居れば、何でも出来る。
不可能を可能に、変えられそうな気がする。
だから、
「好き、大好き、愛してる」
だから、
「君の心も、全て僕に委ねて」
この命が続く限り、君を想うと誓おう。