蝦夷から帰って、私はひとまず江戸の自宅に帰った。
ぼんやりと新撰組の事を考えながら過ごしていると、風間さんが迎えに来た。
まさか、本当に来るとは思っていなかったので驚いた。
「何だ。やはり俺に迎えに来て欲しかったのか?」
「…えっと……」
風間さんは、自分の家が何処にあるのか私に教えてくれただろうか。
そう突っ込みたくなったが、風間さんが怒るのが目に見えているので止めておいた。
「風間さん…これから、どうするつもりですか?」
「……何故、俺を名前で呼ばない」
え、と一瞬驚く。
まさか、こんな風に言われるとは思ってもいなかった。
目を見開いて風間さんを凝視していると、小さく溜息をつかれた。
「まぁいい。お前が俺の事を千景と呼ぶように躾ければ良いだけだ」
「し、し、躾け…!?」
ニヤリと笑って面白そうに口を開く風間さんが、意地悪に見えた。
実際意地悪なんだけれども、更に磨きがかかっているように見える。
反論したくて、でもなんと言えば良いのか分からなくてオロオロする。
「お前は俺の妻となる者だ。夫を名前で呼ばない嫁が何処にいる?」
まだ嫁にはなっていないんですが、と反論したい。
けれど、すればまた風間さんが怒るのが目に見えているので止めておいた。
それに、風間さんと結婚するのが嫌という訳では無い。
(…やっぱり、惚れてるんだろうなぁ)
ぶっきらぼうで意地悪だけれども、時々優しい態度にドキリとする。
それに、綺麗に整った顔で見つめられると、どうにも抵抗出来ない。
(そ、それでも…心の準備が…!)
まだ家に帰って3日と経っていないはずなのに。
いくらなんでも早すぎるだろうと思った。
自分勝手にも見えるが、迎えに来てくれた事自体は、嬉しいと感じてしまう。
そう思うと、頬が熱くなる。
「か、風間、さん…」
「……名前で呼ばないのか。……罰だ」
フッと意地悪そうに笑うと、風間さんは私の体を引き寄せた。
驚いて固まっていると、顎を持ち上げられ口付けられる。
「んんっ…!」
びっくりして思わず口を薄く開いてしまう。
そこから舌がぬるりと入り込んで、口腔をまさぐる。
舌を絡めとられ、どちらのものか分からない唾液が顎を流れる。
「や、ぁ……ぅ…っ」
自然と艶めいたような声が漏れる。
その反応に満足したかのように、風間さんは唇を解放した。
「名前で呼ばない度に、今のようにする。…いいな?」
「ぅ、ぇ…!?」
驚いたのと、口付けの所為で息苦しくて、おかしな声が出てしまう。
心臓がバクバクと脈打っているのが分かる。
「ち、千景、さん…」
「なんだ、千鶴」
名前を呼べば、今まで見せた事もないような甘い微笑を見せられる。
一瞬くらりと眩暈がした。
赤くなってまたも固まっていると、抱きしめられる。
感じる体温が心地良くて、胸に顔をうずめる。
「…お前に触れられなくて、狂いそうだった」
「え、えっと…まだ3日くらいしか…」
恥ずかしいながらも嬉しくて、でもやはり反論したくて、もごもごと口を開く。
「3日?それがどうした」
ぎゅっと、よりいっそう強く抱きしめられる。
首筋に顔をうずめられて、ドキリとした。
冷たいけど、心地良い唇。
また、心臓が壊れそうなくらいに動く。
「……一瞬でも…離れたく、無い」
そう呟くと、また口付けられた。
今度はの口付けは、触れるだけの、優しいものだった。
「…足りないです」
私は、ついもっと口付けを交わしたくて我侭を言ってしまう。
「なんだ、これでは足りないのか?」
少し照れたような嬉しそうな微笑み。
私も、同じように嬉しくなる。
数秒だけ見つめ合って、そして……
蜜よりも甘い口付けを
永遠に飽きる事は無い。