貴方は、不器用だけどとても優しくて。
無口だけど、誰よりも志の強い人で。
いつも、いつも、私を助けてくれたよね。
「一さん……」
そっと名前を呼ぶ。
名前を呼ぶだけで、愛しさと切なさが溢れてくる。
いつの間にか、こんなにもあの人を愛していた。
鬼の私が、人を愛する事なんて、許される訳が無いのに。
鬼の私を、あの人は受け入れてくれる訳が無いのに。
「…っ」
涙が、ポロポロと溢れてきた。
この想いを、貴方に伝えられたら、どれだけ楽になれるだろうか。
愛しています、と言えたら、どれだけ満たされるだろうか。
(でも…)
拒まれたら、それで最後だ。
もう、ごく普通の関係ですら、壊れてしまう。
壊れてしまったら、自分はどうする事も出来ない。
作り直せない、作り直したくない、貴方との関係が壊れても。
諦めなければいけないと、分かっていた。
分かっていたのに、私は。
「……大嫌い」
そっと、ありのままの想いを呟いた。
こんな自分が、大嫌い。
私をこんな風にした、貴方も大嫌い。
大嫌いだけど、それ以上に――
世界中の誰よりも心地よい人でした。
愛しているから、諦めます。