今日は、いつもと少し違った。
朝起きると、妙に気分が悪くて、体がだるい。
本音を言えば二度寝したかった。
だが、朝ごはんの準備をしなくてはいけない。
「……うぅ」
なぜこんなにも吐き気がするのだろうか。
理由は良く分からない。
最近食べる量が減ったような気が、自分でもしていた。
「………そんな訳は」
ないよね、と頭に浮かんできた予想を追い払う。
土方さんとは、仲良く暮らしている。
(…今は、歳三さん、だった……)
名前で呼び合っていた事を思い出して、一人で赤くなる。
千鶴、と彼が呼ぶたびに、自分の鼓動は早くなる。
くらりと倒れそうなほどの衝撃に襲われてしまう。
何度抱き合っても、彼の事が愛しすぎてたまらない。
「…あ」
そう考えているうちに、突然頭を大きな衝撃が襲った。
同時に嘔吐感がこみあげてきて、体が倒れそうになる。
(駄目)
彼に迷惑をかけたくないという気持ちで、なんとかその場を倒れずにすんだ。
しかし体調が良くなる訳でも無かった。
視界が、突然真っ暗になった。
「良かったですね…おめでとう御座います」
そんな声が、何処かで聞こえた気がした。
近所にある、小さな病院のお医者様の声だった。
「……いつ生まれるか、分かるか」
「まだまだ先で御座います。土方さんは、気が早いですなぁ」
ははは、と楽しそうに笑う声が聞こえる。
「…言ってくれるじゃねえか」
不機嫌そうに、愛しい貴方は苦笑をしていた。
私がぼんやりと見つめていると、彼は私に気付いてくれた。
「千鶴」
私の名前を呼んで、歳三さんは微笑んだ。
いつもよりも穏やかな笑顔だった。
「…餓鬼ができた」
呆れたように、彼は呟く。
その言葉の意味がよく理解できずに、私は首をかしげた。
「…えっと」
畳の上にしかれた布団の上から、私は体を起こす。
歳三さんは、私が起き上がるのを確認すると、勢い良く抱きついてきた。
「わぁっ」
「おやおや、仲がよろしい事で…。私は少しの間だけ退散しますかな」
驚いて声をあげた私に、お医者様は微笑んだ。
そのまま鼻歌でも歌いそうな様子で、この部屋からゆっくりと出て行った。
「歳三さん、あの…」
状況が飲み込めない私は、彼の温かい背中に腕を回しながら問いかけた。
彼は何も言わないまま、私のお腹をそっと撫でた。
「……え」
それだけで、伝わった。
新たな命、それが私の中にいるのだという事が。
「おめでとう。…俺達の、子供だ」
そう言いながら微笑む彼が愛おしくて。
そっと身を任せると、痛いほどの力で抱きしめ返された。
「……名前は」
「そのうち決めるさ。…今は」
もう少しこのままで、艶のある声でそっと囁かれる。
赤くなる顔を見られたくなくて、私は顔を背けながら、小さく頷いた。
思い描く、幸せな未来
その先もずっと、貴方と共に居られますように。