季節は夏となった。
新選組の隊士たちは、この暑さのせいで体調を崩してばかりだ。
最近では、あの土方さんまでもが体調が良くないらしい。
(心配だなぁ…)
滅多に弱音を吐かない土方さんが、体調を崩しているのだ。
心配で心配で、たまらなかった。
看板したいが、邪魔だと言われるのが怖い。
…せめて、何か手伝えれば良いのだが。
ぼんやりと空を見上げると、すがすがしいほどの青空が広がっていた。
雲は綿菓子のようにふわふわと浮かび、千鶴はその景色に目を奪われた。
すると、
「こんにちは、千鶴ちゃん。良い天気だね」
見上げていた景色の中に優しく微笑む沖田が居た。
何か企んでいるような、裏のある笑い方だ。
「沖田さんこんにちは。どうかされたんですか?」
不思議に問いかけると、沖田はにこりと笑って、千鶴の腕をひっぱる。
「今日は一番組が巡察の日なんだけどさ。一緒に来ない?最近はこの辺りは安全だし、何か美味しいものでも買いにいこうか」
僕がご馳走するけど、と優しく微笑まれた。
「それに、土方さんがあの調子だし…ね?」
最初は言葉の意味が分からなかったが、すぐに状況を理解した。
「まぁ、そんな感じ。あの人が調子悪いんじゃ、新選組も調子出ないしね」
それに、と言い、沖田は何かポツリと呟いた。
「…ちょっと、からかってやろうかなと思って」
「え?」
上手く聞きとれず、首を傾げたが、沖田は何でもないとはぐらかした。
それから、一番組に同行して巡察を終えた。
土方さんのお土産に、甘い物を沢山買ってきた。
さっそく、沖田さんと一緒に土方さんの部屋へと行く。
「失礼します」
そう言って中に入ると、そこには不機嫌そうな顔をしながら座っている土方さんが居た。
「…お前、今まで何処に行っていた?」
低く唸るように問われて、驚きを隠せない。
「やだなぁ、土方さん。ちょっと遅くなったくらいで、そんなに怒られても困りますよ。ただ巡察に行ってただけじゃないですか」
「…ただの巡察で、ここまで帰りは遅くならないはずだが」
どこか、怒っているように見えて、体がこわばる。
「…あははは。そんなに僕の側に居させたくないなら、自分の側に置けばいいのに」
馬鹿みたい。
そう呟いて、沖田は部屋を出ていった。
「千鶴ちゃん、頑張るんだよ」
それだけ、私に言い残した。
廊下には、沖田の声が響いている。
予想通りだ、土方さんってば、という声。
まるで、わざと大きな声で話しているような独り言だった。
ハッとして、目の前の土方さんに目を向ける。
未だに、彼は不機嫌そうに目を細めていた。
「あ、あの……」
口を開けば、有無を言わせず抱きしめられた。
もう何度かこうされた事はあるものの、やはり恥ずかしくて慣れない。
「ひ、土方さん…!?」
驚いて声をあげると、深く口付けられた。
息が苦しくなって口をうっさら開けば、舌がぬるりと入りこんでくる
体がゾクゾクと震え、顔が真っ赤に染まる。
角度を変える度に、どちらかも分からない吐息がもれる。
水音が静かな部屋に響き、体がほてっていくのが分かった。
ようやく唇を解放された時には、もう体がとろけそうになっていて、支えられるように再び抱きしめられた。
「………総司の側に居るくらいなら……俺の側に居ろ」
「ぇ…………?」
思わず疑問の声を出せば、顔を少し赤くした土方さんが、そこに居た。
「…総司に嫉妬してんだよ、馬鹿」
思わず顔がほころぶ。
土方さんに、そう言ってもらえて嬉しいと感じてしまう。
愛しいという気持ちを抑えられなくなって、思わず土方さんの背中に手を回した。
鼓動が、お互いに伝わってくる。
それがなによりも嬉しくて、甘えたように土方さんに呟いた。
「……もっと、妬いてください」
我ながら、ワガママだとは思う。
けど…、
「…馬鹿。俺の身がもたねえよ」
優しく微笑みながらそう言ってくる土方さんから、愛されていると実感させられたい。
私は、この人が大好きなんた。
「…大好きです、土方さん」
そう言いながら微笑むと、照れたように、答えを返してくれる。
「俺は…そうだな……」
優しく甘い笑顔で、
「…愛してる」
愛の言葉を君に
君が望むのならば、どれだけでも。