俺は今、剣術の稽古を1人でしている。
…正確には、1人ではないが。
「…土方さんって、やっぱり凄いですね」
俺が刀を振るう度に、感心したように褒める千鶴。
……はっきり言って、気が散る。
「……こんなの見てる暇があったら、お前も稽古の1つや2つ、したらどうなんだよ」
いつもよりも低い声色で、千鶴に向かってそう呟く。
……優しく接したいと思っているのに、普段の俺がそれを邪魔する。
鬼にならなければ、新撰組を束ねる事は出来ない。
「見てるだけで、勉強になります」
「……どうだかな」
俺が自虐的に呟くと、千鶴は驚いたような表情を見せた。
そして、俺をまっすぐ見つめると、強い口調で話し出した。
「土方さんは、凄いですよ。本当に、見ているだけで勉強になるんです!」
「…そうか。なら、しっかり覚えとかねぇといけねぇな」
「はいっ」
千鶴はそう言うと、再び俺を真剣な眼差しで見つめる。
少し、くすぐったい。
けど、不快だとか、そういう気持ちは全く無い。
「…勝手にしろ。ただし、絶対に騒ぐんじゃねぇ」
「分かりました」
真剣に頷く千鶴が、妙に愛しく思えてきて、俺はブンブンと首を振った。
間違いだ、そんな事あるはず無い。
チラリと様子を伺えば、俺に向かって優しく微笑む千鶴。
照れくさくて、目線をわざとずらす。
……なぁ、もう1回だけ、お前の事見てもいいか?
刻み付けたいんだ、お前の事を。
それだけで、強くなれる気がする。