最愛の人と一緒に食事をすると、胸が温かくなる。
会話が続く度に、相手を愛しいと実感させる。
心地良い沈黙が訪れる度に、貴方の優しさが嬉しくなる。
視線をが交わると、抱き合いたくなる。
大好きで大好きで大好きで、心が張り裂けそうになる。
「……どうかな?」
いつも通りの夕食、いつも通りの彼。
私もいつものように、味の感想を聞いた。
「ん?美味いに決まってんだろ」
少年のようなあどけない笑みを浮かべて、平助くんは返事を返してくれる。
私がいつも一番欲しい言葉を、当たり前のようにくれる。
嬉しくてはにかむと、平助くんも当たり前のように笑ってくれた。
何度見ても、貴方の笑顔が愛しく感じてしまう。
「…あったかいね」
もう冬に近い季節になったが、彼と居るだけで心は寒くない。
むしろあったまるようで、それがとても心地良かった。
「そうだなぁ。やっぱお前が傍にいるからさ、俺は寒く無いと思う」
ほらまた、私が一番欲しい言葉をくれた。
私と同じことを考えていてくれた、それがたまらなく嬉しい。
でもやっぱり恥ずかしくて、顔を見られたくなくて、うつむいてしまう。
鼓動が早くなるのが、自分でも嫌というほど分かる。
「…だからさぁ」
平助くんは、そんな私に向かって呆れたように呟いた。
チラリと様子を伺うと、ため息をついている姿が目に入る。
馬鹿にされたのだろうかと思い、またうつむいてしまう。
(……恥ずかしい)
嬉しいのと恥ずかしいのとで、感情がぐちゃぐちゃだ。
でも、なんとか顔を見ようと決意して、もう一度様子を伺った。
(あ、れ…?)
そこに、もう平助くんの姿は無かった。
先ほどまでは、そこで微笑む彼が存在していたのに。
「…へ、平助くん……?」
心細くてきょろきょろとあたりを見回す。
やっぱり呆れられて、部屋を出て行ってしまったのだろうか。
不安になって泣きそうになる寸前に、急に後ろから声がした。
「ここだよ」
それは愛しい彼の声。
振り向こうとすると、ぎゅっと抱きしめられた。
ふわりと鼻腔をくすぐる、爽やかな柑橘系の香りが心の不安を取り除く。
後ろから抱きすくめられて、頭の中が、さっきよりもぐちゃぐちゃになる。
「……そんな可愛いことばっかしてるとさ、こっちももたないんだけど?」
急に響いてきた声に一瞬驚く。
彼はもぞもぞと体を動かすと、着物を少しだけずらして、首筋に顔をうずめてきた。
時々小さな口付けを落とされて、ゾクリと体を電気が駆け抜けるような感覚になる。
「んっ…」
ぺろりと舐められれば、過剰に反応してしまう。
体が熱くなり、目も焦点があわなくなってきた。
「…奥の部屋、行く?」
意地悪にそう聞かれて、ハッと我に返った。
急いで崩れた着物を直すと、するりと彼の腕の中から逃げる。
「ご、ご飯、食べましょう」
ぎこちなくそう言い、その場を誤魔化そうとした。
けれど、相手はそんな言葉には耳を向けないようで。
「だーめ」
腕をぐいっと引っ張られて、彼に抱きかかえられた。
反論しても、ただ平助くんは嬉しそうに微笑んだ。
「愛してる」
少し照れたように言われて、その瞬間唇を塞がれた。
触れるだけの軽いものだったが、威力は十分だったようで。
(………もう)
なるようになれと、私は心の中でそう思いながら、身を任せた。
寝室へと進んでいく道のりが、いつもより長く感じた。
貴方だけには敵わない
だって、好きだから。