秋の半ば頃、私は平助くんと2人で紅葉を見ていた。
鮮やかな葉がひらひらと舞い落ちて、それだけで目を奪われる。
「綺麗だねぇー…」
もう大分寒くなってきて、手が冷たい。
はぁーと息を吹きかけると、平助くんが無言で手を握ってくれる。
なんだか照れているみたいで、可愛いなと思った。
「ふふ…平助くんと、こんな綺麗な紅葉が見られるなんて」
嬉しいな、と言って微笑む。
平助くんは恥ずかしそうに頷くが、どこか元気が無いように見えた。
いつもの平助くんなら、思い切りはしゃいでそうなのにと、心配になる。
「…平助くん、どうかした?」
そう聞くと、平助くんは我に返ったようにハッとして、ブンブンと首を振る。
「べ、別に…何でもねえよ」
プイッとそっぽを向く彼の仕草が、また愛らしくて顔が自然と緩んだ。
でも、やっぱり元気が無い理由が気になる。
「ねぇ、何かあったの?平助くんが元気無いと、私も元気が出ないよ…?」
そう言って、平助くんの顔を覗き込む。
自分で覗き込んでおきながら、近くにある平助くんが格好良く見えて、少しだけ赤くなる。
「…この頃、あんまし2人で一緒に居れなかっただろ?」
「うん…だから今凄く嬉しいのに、平助くんの元気が無いみたいだから心配で…」
そう言いかけて口篭る。
もしかして、気分でも悪いのだろうか。
「平助くん、体調が良くないなら部屋で休んでた方がいいよ?」
元気が無い理由がそれだとしたら、一秒でも早く元気になって欲しい。
本気でそう思ったから、平助くんと一緒に居る時間を削っても良いと思った。
でも、本人は…
「嫌だ!なんでそんな事までして千鶴と離れなきゃなんねーんだよ!…てかさ、俺は別に何処か悪いわけじゃないんだし?」
そう言って、私を腕の中に引き込んだ。
暖かくて、子犬みたいな平助くんが大好きでたまらない。
思わずぎゅっと抱きしめ返すと、抱きしめられる力も少し強くなった。
「…せっかく千鶴と2人っきりなのに、お前ってば紅葉にばっかり夢中でさ」
少しは俺を見てくれよ?と照れたように微笑む。
その言葉に、私は顔を真っ赤に染めた。
「へ、平助くん…!」
「紅葉に妬いて悪いか?でもさ…やっぱり、千鶴には俺だけを見て欲しいんだよ」
ちゅ、と小鳥がついばむような、触れるだけの口付けをされる。
「俺を見てくれるなら…紅葉にだって妬くよ、俺は」
そういって、更に強く抱きしめられた。
ほんのりと感じる体温が心地良い。
「愛してる」
「…私もだよ」
そう言って、お互いに微笑み合った。
触れられる距離を縮めて
そのまま重ねよう、心も唇も。