朝がきて、昼が過ぎ、夜がくる。
毎日は、ただそれの繰り返し。
羅刹の狂気を薄める為に、今は平助くんと二人で療養中だ。
今ではすっかり回復し、昼間でも動けるようになっていた。
穏やかな日の光の注ぐ中、千鶴はぼんやりと庭を眺めていた。
桜の花が、綺麗に咲いている。
…この場所で桜を見るのは、今年が初めてだ。
(あったかいなぁ…)
そう思いながら、大きく背伸びをした。
暖かい春風がとても心地よくて、つい眠くなってしまう。
あくびを一つ、このまま寝てしまおうかと思った時だった。
「ここにいたの?千鶴」
聞き慣れた優しく愛おしい声が、うしろから響いてきた。
振り向けば、大好きな彼がそこに立っていた。
新選組に居た頃よりも背が高くなって、ずいぶんと大人びた彼がそこに居る。
(格好良いなぁ…)
思わず見とれてしまい、平助の顔をじっと見つめるようになってしまった。
静かな沈黙が流れる。
しばらくすると、平助は困ったように微笑した。
ゆっくりと近寄ると、千鶴の隣に座る。
「…どうして、俺を見つめるの?」
優しく穏やかな声色は、何処か少し嬉しそうだ。
千鶴は赤くなりながらうつむくが、やがて観念したようにボソボソと呟いた。
もごもごと口を開けば、平助は嬉しそうに目を細めた。
「……惚れ直した?」
そう問いかけてくる平助を、千鶴はまともに直視出来なかった。
分かってるくせにと反抗的思いながらも、顔はさっきよりも赤くなっている。
何か言おうと口を開くが、上手く声にならない。
「んー?よく聞こえないなぁ」
クスクスと笑いながら、平助は意地悪そうに笑う。
困ったようにオロオロすれば、耳元に唇を寄せて呟いてくる。
「俺は、何度でも聞きたいんだよ。千鶴の気持ち」
とろけるような優しい笑顔を向けられて、心臓が激しく動く。
やがて諦めたように、真っ赤になりながらも千鶴は答えた。
「平助くんには…最初から、惚れてます」
消えそうな声で呟く。
ちらりと平助の方を見れば、照れたような嬉しそうな顔があった。
そして、不意に抱き寄せられた。
「んっ……」
少し乱暴だが、優しさの混じった口付け。
平助の腕は逃がさないとでもいうように、両腕を拘束する。
「ふっ…ぁ……」
満たされていると実感できて、たまらなく嬉しかった。
最後に唇を舐めあげられ、ビクリと体が反応する。
「…可愛い。愛してるよ、千鶴」
その一言がなによりも嬉しいと思う。
でも、
言葉はもういらない
伝えたいことが多すぎるから、唇で語ろう。