とある穏やかな昼下がり。
1人で槍の手入れをしていた時、千鶴がやってきた。
「こんにちは、原田さん」
「よぅ。どうした、何かあったか?」
嬉しそうに微笑む千鶴は、何か楽しい事でもあったかのようだ。
…俺以外の奴が、お前にそんな顔させてんの?
そう考えるだけで、胸の奥がムカムカとしてくる。
「原田さんが槍の手入れしている所、初めて見たんで…ちょっと嬉しいかなぁって…」
「…俺の手入れをする姿は、別に珍しくもなんともないと思うがなぁ」
「原田さん、剣も槍も凄く強くて、尊敬してるから…こういう姿が見られるのは嬉しいです」
微笑んで、千鶴は俺の横に座る。
俺がこんな笑顔をつくってやれたかと思うと、顔がニヤけそうになる。
だらしない顔をするのは御免なので、勿論我慢するが。
「ありがとよ。誰かに尊敬されるのは、嫌な思いはしねぇな…」
俺が手入れをしながら呟くと、千鶴はふふ、と花が咲くように笑った。
「原田さんって、どうしてそんなに強いんですか?」
「…俺が?」
そりゃあ毎日稽古してるから…と答えそうになったが、一瞬ためらう。
……答が出そうで、出ない。
そもそも、俺が命がけで戦うのは新撰組の為だし、千鶴を守りたいと思うからで…
(あ)
気付いた、そうか、そうだったんだ。
「知りたいか?」
「はいっ。どんな稽古をしてるんですか?」
馬鹿、ちげーよ。
俺はそう言うと、千鶴の唇に自分の唇を重ねた。
一瞬触れるだけの、優しい接吻。
「な、は、原田さん…っ」
赤くなって混乱する千鶴は、いつにもまして可愛い。
あぁ、こいつが傍に居るから、俺は強くなれるんだ。
「…お前を守りたいと思うから」
「え?」
「もう言ってやらねぇよ」
意地悪くそう呟くと、話を聞いていなかった千鶴に、もう一度口付けた。
いくらでも強くなれるよ、お前の為なら。
傍に居る限り、守ってやる。