穏やかな、雨音が聞こえてくる。
まだ朝っぱらだというのに、外には微かな雨が降っていた。
最近は晴ればかりで、中々雨が降らなかった為、今日は久しぶりだ。
雨音を聞いていると、どこか落ち着くのは何故だろうか。
「わぁ、雨ですよ。自然が豊かになりますね、原田さん」
そう言って、俺に向かって微笑む彼女は、淡い花びらのようで。
一瞬、その笑顔に見惚れてしまった。
「……雨、好きなのか?」
「嫌いじゃないです。なんだか落ち着くし…」
俺の問いかけに、優しく答えてくる千鶴。
落ち着く、という所は、共通点なのかもしれない。
自分との共通点をたった1つみつけただけで、こんなにも嬉しい。
「俺も嫌いじゃねえよ。…大地が潤うしな」
「あ、私も思いました。晴れも好きですけどね…自然が育つし」
晴れと雨、両方を好きだと言える。
そんな明るい千鶴が、とても羨ましく思う。
「雨音は…なんだか、優しい音ですね…」
そう言って、はにかんだように笑う千鶴。
確かに、雨音はどことなく優しい雰囲気かもしれないと思う。
「そうだな…」
俺は千鶴の意見に、素直に同意した。
俺のその言葉を聞くと、千鶴は明るい顔になった。
…そんな嬉しそうな顔してるのは何でだ?
俺の一言に過剰に反応して、嬉しそうにするのは何でだ?
……少しくらい、自惚れてもいいって、思っていいのか?
「今日は、ゆっくり休んで下さいね。原田さんは無理しすぎです」
優しい、優しい千鶴。
俺みたいな奴の事を、気遣ってくれるんだ?
嬉しい、柄にもなく、本気で嬉しい。
「…そうしとくよ」
千鶴の頭をふわりと撫でながら、そう呟く。
嗚呼、もう少しこのまま、2人で…。
耳を通り抜ける雨音。
この音が続く限り、君の傍に居る事を許して欲しい。