美しい紅の夕日の光が、少しだけあいた障子の隙間から部屋へと差し込んでくる。
どれくらい時間が経っていたのだろうか、それすらもよく覚えていない。
新撰組に来てから、もう数日が経とうとしているが、この生活にも少しは慣れてきた。
今日は、皆は剣の稽古ばかりしているらしい。
私は、それをずっと見ていたはずなのだが、土方さんに気が散ると注意された。
(…ま、仕方無いかぁ)
土方さんの、苦虫を潰した様な顔を思い出して、少し苦笑する。
それからは、部屋で大人しくしていたはず。
………障子も、ちゃんと閉めた、はず?
「……え」
あたりをキョロキョロと見回すと、そこには原田さんの姿が。
入ってきてずいぶんたつのか、壁に寄りかかったまま、穏やかな寝息をたてていた。
(……綺麗)
素直に見惚れた。
男らしくて整った顔立ち、自分と違って健康そうな肌、無駄な肉が一切無い引き締まった体。
それはこの狂った時代に生きる、気高き武士そのもので……
(………綺、麗)
もう一度、本当にそう思った。
やがて、その視線に気付いたかのように、原田は目を覚ました。
眠たそうに目を擦り、目の前にいる千鶴に目を向ける。
「……ぁ」
目が合った。
原田は驚いた顔をして、千鶴をじっと見つめた。
なんなのか分からなくて首を傾げると、かれこれ何分も原田の事を見つめていた自分を思い出して、顔が真っ赤になる。
「いつから起きてた?」
「え、っと…」
「俺のこと、見てた?」
「ぅ………」
図星をあてられて、千鶴は更に顔を真っ赤にする。
そして、何かを誤魔化すように、手をパタパタと動かすが、原田から見れば、それは図星をつかれて動揺している千鶴にしか見えない。
千鶴の可愛い反応が面白くて、原田は優しい笑みを浮かべて、千鶴を再び見つめた。
千鶴はビクリと一瞬停止すると、困ったように口を開いた。
「あ、あの、原田さん……」
「ん、何だ?」
「どうして…私を見るんです、か……?」
顔を背けながら、必死に尋ねてくる彼女が可愛らしい。
「いや、千鶴が最初に見てたんだろ」
「そ、その件については謝りますっ!勝手に盗み見して、気持ち悪いですよね、すいませんでし……」
千鶴の言葉を遮る様に、原田は頭を撫でた。
優しい笑みは消えず、それは妹に接するような兄そのもの。
「は、原田さん…?」
「別にいい。謝る事じゃないだろ?」
はい、と千鶴は小さく呟く。
そして、恥ずかしそうに、またも口を開く。
「どうして頭…撫でるんですか?」
「別に、減るもんじゃないし」
千鶴は返答に困った。
まだ、私は妹扱いされているのだろうか。
そう思うと、胸のどこかが痛むのは何故だろうか。
沢山の疑問が、頭のなかをぐるぐると回っている。
「原田さんは…私の事、子ども扱いしてるんですか?」
「はぁ?お前は、子供なんて呼ばれる年齢なのか?」
「……違いますけど、なんか、子ども扱いされてるって思います………」
口を尖らせて反論する。
可愛い、可愛い…千鶴。
俺がお前を子ども扱いするのは、お前に触れていたいから。
今の関係を壊して、拒絶されたくないから。
……お前の笑顔を見れないのは、怖いから。
この思いに、気付いてもらえなくてもいい。
お前が、笑っていられるなら、俺はお前の居場所を守るだけだ。
「可愛がってやってるんだよ。俺から見たら、お前なんてまだまだ子供だ」
くすりと笑うと、千鶴も気が抜けたように笑う。
そう、その笑顔。
俺はその笑顔を守りたい。
「もう…あんまり歳の差は無いのに……」
おじさんみたいですよ、と可笑しそうに笑う彼女は、どんな花よりも美しくて。
……守りたい。
何があっても、守りたい。
「おじさんで悪かったな」
「す、すみません」
お互いに笑い合う。
笑いあうまでのその一瞬。
君を守りたい、そう思う。